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総指揮官って、誰?

 物事には長期的に考えなくてはならないことと、短期で結論を出さなくてはいけないことがある。今回の大震災の復興の困難さは、その両方がごちゃ混ぜに押し寄せていることだろう。
 前回書いた行政のアイデンティティや避難民の仕事のことなどは、いわば本当に長期的なビジョンを持って進めなくてはならない。
 しかし一方で、急いでなんとかしなくてはならないこともある。その一つが、二十キロ圏内に居残る人々である。なんとかすると云っても、「ここに居る」「ここで死んでもいい」という人々にだって、そう考える権利がある。自殺が罪に問われないように、自分の故郷での死を選ぶ権利だってあるはずである。
 たとえば富岡町でも、二度、自衛隊の護衛つきで居残る町民を迎えに行ったのだが、今も十人以上の人々が、どこの避難所に行くこともなく、自宅に残っているのである。それぞれに切実な理由がある、というより、目に見えない放射能の恐怖が、彼らにはそこを去るほどの切実な理由にはならない、ということだろう。たとえどうなったとしても、彼らはそこに生き、そこで死ぬことを選んだのだ。
 彼らを強制退避させる権利が、誰かにあるのかどうか、私には分からない。
 そうこうしているうちに、福島第一原発1号炉の様子がおかしい。4月7日以降、急に炉心圧力が上昇し、放射線レベルも急上昇しているのである。最悪の場合、再臨界が起こっていて、前回とは比べものにならない規模の水素爆発の可能性を指摘する学者さんもいる。相変わらず楽観論・悲観論が交差しているのだが、少なくとも最悪の場合、我々はどうやってその事態を知ることができるのか、それだけは決めておいてほしい。
 前回、避難指示の連絡を市町村にしたのは県警だった。しかし県警からの連絡を市町村民にどうやって伝えるのか。あるいは決定的な出来事が夜中に起こったらどうするのか。
 京都大学原子炉実験所助教の小出裕章先生などは、最悪の場合、風向きによっては東京も優に避難圏に入ると予測している。
 そんなことにならず、東大理学部の早野龍五先生のおっしゃるように再臨界ではないことを祈りたい。東電で測定した塩素38のデータも、先生ご指摘のように間違いであってほしい。
 しかしどちらであれ、とにかく最悪の場合の緊急連絡方法だけは早急に決めておいてほしいのである。
 避難民の自立問題や行政のアイデンティティの問題は、そのあとでじっくり考えればいい。むろん専門家による着実な準備は同時並行で進めなくてはならないが、私が申し上げたいのは総指揮官における思考や行動の順番である。ところでこの問題の総指揮官って、誰?