薫風が南から吹いてくる。建物のなかが微かに涼しい。本当に佳い季節なのだが、毎年この季節になると、たぶん縁の下のどこかから羽蟻が大量に発生する。おそらく行列しながら柱をのぼった羽蟻たちが、ぞろぞろぞろぞろ延々と敷居を歩き、畳を渡り、それからカーペットの上にも色が変わるほど現れるのである。一昨年までは、見つけると慌てふためき、殺虫剤など取りに走る光景もあったものだが、去年、じっと見ていると、彼らはまっすぐ明るいほうへ向かい、縁側の縁まで来ると飛び立ってしまうことを発見した。今年は余裕をもって発見直後に室内の蛍光灯をすべて消し、見守ること2時間あまり。やがて羽蟻たちの姿は完全に見えなくなった。行列を眺めながら、一瞬ビルマや四川省の人々を想ったけれど、こちらは申し訳ないくらい平穏なのである。