『創生水』という水が、もしや放射能汚染を除去するのではないかと期待をかけ、田圃や校庭の削土に利用してみようと考える人々がいるようだ。田圃にこの水を注ぐと、たしかに2分の1以下まで放射線量が落ちる。一見、放射能が除染されたようにも思えるのである。しかし理論的にはどうしてそうなるのか分からない、というのでこちらで調べてみた。
(むろん専門機関にお願いしたのだが)
この水の分子式はH3O2-と、じつに変わっている。さすが変わった水だけあって、実験によると、どうも放射性セシウムを寄せ付けにくいようだ。
しかし寄せ付けないとはいっても、けっして放射能がなくなるわけではない。たとえば田圃にこの水を入れた場合、水のほうに近づきにくい放射性セシウムが、泥のほうに入ってしまう。つまり、泥の中の放射線量は、逆に増えてしまうのである。これでは泥から養分を吸い上げる稲にとって、よかろうはずがない。校庭から削った土の場合もこの水をかければ表面から沈むだけなのである。
水というのは確かに不思議な液体である。いろんなことを期待してしまう気持ちも分からないではない。私のデビュー作『水の舳先』もそういう期待、いや信仰をもつ人々を描いた作品だと思う。しかし放射能というのは、けっして水によって消えるようなものではないことを再認識していただきたい。
むろん私は、『創生水』を全面的に否定するものではない。放射性物質を寄せ付けにくいわけだから、飲むことはとても有効だろう。もしかしたら内部被曝を引き起こす放射性物質も排出しやすくするかもしれない。しかも『創生水』を使って蕎麦を打ち、ダシもそれで割って食べると、これがじつに旨いらしい。
呉々も、使い方を間違えないようにと、それだけ申し上げておきたいのである。