タグ: 原発

コンピューターで遊ぶな!

 5月23日、権威あるWHO(世界保健機関)が、ご丁寧にも福島県のみならず、日本全国、いや、国外も含め、今回の福島第一原発事故による外部、内部被曝総線量の「推定」を発表してくださった。
 それによれば、千葉県や茨城県などの福島近隣県は0.1 ~10mSv、東京都、大阪府などその他の国内地域は 0.1~ 1mSv、福島県は、飯舘村や浪江町を除いては 1 ~10mSv、飯舘、浪江などは 10 ~ 50mSvなのだそうである。いやいやなんとも大胆な、大雑把な内容である。
 外部被曝は、一日16時間は室内にいた(つまり表に8時間いた)と「想定」して計算されている。呼吸による内部被曝は、24時間屋外にいたと「仮定」し、また原発から 20 ~ 30キロ圏内の住民は、事故後4ヵ月、地元に住み続けたと「想定」して計算しているのである。
 わざわざ最悪の状態を「想定」し、こんな面倒な計算をしてくださったのは、どういうわけだろう。いったい誰のためにこんな公表が役立つのだろう。
 その答えは簡単である。
 彼(または彼女)は、コンピューターの前に坐り、なにか仕事はないかと捜していたのである。要するに、ヒマだったのだろうが、とにかく机に向かっていないと仕事をしているように見えない。それが現代社会のエリートたちらしい。
 たまたま思いついたのが、この計算だった。
 しかも細かい状況など何も知らないから、最悪で「想定」しておけばいいと考えた。この理由が私には理解しにくいのだが、たぶんこれは、日本のフクシマ界隈はこの程度危険なのだと示すためなのだから、多めになったほうが便利だと考えたに違いない。外国の皆さん、どうかこの数字を覚悟してお出かけください。いや、できればお出かけにならないほうが宜しいかと……。WHOはそこまで心配しているんですよ、というわけである。
 この企画を許した上司も、ああ、それならWHOの評判に寄与すると、簡単に許したのではないだろうか。
 ところが結果はどうだろう。
 地元では直接測っているのだから誰も参考になどしないし、あまりの大雑把さに呆れるだけである。そしてこれでまた一歩、「フクシマ一括り」が進むだけなのだと思う。
 彼(または彼女)はコンピューターの前に坐ったまま、福島の風評被害を促進していることなど気づくよしもない。ご丁寧なだけじゃなく、誠に迷惑なお仕事をしてくれたものである。
 だいたい、24時間外にいる人など、どこにいるとお考えなのだろう。
 世界保健機関の皆さまには呉々も申し上げておきたい。こちらではちゃんと外部被曝も内部被曝もきちんと(少なくとも「想定」よりはきちんと)測っているのだから、いくらヒマでも勝手な計算を公表しないでもらいたい。
 あなた方が一括りにした私の町では、この一年間ずっと継続的に子供達の被曝線量を測ってきた。飛び抜けて多かった子で、年間 1.7mSvである。その三春町も、会津も、福島市も、どこもかしこも 1 ~ 10mSv
という書き方は、いったいどういうつもりなのか。どうせ「他人事」なのだろうが、ヒマならもっと詳しく示したらどうか。
 環境放射線量が福島県内より高い地域がずいぶんあることも、ちゃんと示してはどうだろう。
 さすがにコンピューターのデータだけでは、そこまでは分からない? それならこっちに来てみればいいのである。
 いや、私の仕事はとにかくPCの前にいることですし……。結局はそういうことなのだろう。たしか先月だったか、日本でもヒマな役人が福島県の5年後、10年後、20年後の線量を「推定」していた。いや、コンピューターの前に坐ると、ついそういう「遊び」がしてみたくなるのである。あなた方に特別な悪意がないことは分かっている。ただコンピューターの得意な「集約、分析、想定」を、誰もがしてしまうのだ。しかしお願いだから、もう一度大地震が来るだけで無駄になる計算などに、ウツツを抜かさないでほしい。
 WHOは、この推計値を元に健康影響を評価し、夏までに報告書を出すというのだが、どうかやめてもらいたい。「推定」に「推計」を重ねた「評価」など、報告してどうしようというのか。人の心に余計な負荷をかけないでもらいたい。
 そんな発表を無批判にそのまま載せる新聞もどうかしている。しかもご丁寧に見出しは「全身被曝 10~50ミリシーベルト」。わざわざ最大値を強調してくださった。どうやら全国紙のこの見出し係も同じ穴のムジナか……。かくなる上はこの報告書を、厚労省が賢明に受け流すことを念じるばかりだが、「日本の名水」を飲むなという厚労省のこと、何を言い出すかわからない。(4月から水の基準値が10Bq未満になったが、「日本の名水」の多くがその値を超えている)
 さても庶民は権威ある人々に振り回されるばかり。いや、もしかしたら、人間そのものがコンピューターに振り回されているのか?
                                                    (2012,5/28)