投稿者: 玄侑宗久

新年のご挨拶

 新年、明けましておめでとうございます。
 やはり今年も殆んどブログは書かなかったことを、まずはお詫びします。
 去年は「戊(つちのえ)戌(いぬ)」という歳であったため、繁茂しすぎた枝の剪定と順序立てが大事だと申し上げていたのですが、どうも国の動きを見るかぎり、アメリカに擦り寄る姿勢は変わらないものの、ロシアともインドとも近づき、順序立てがよく見えません。韓国との関係は、最悪レベルまで来てしまった印象ですが、これも日本以上に八方美人の韓国が、八方塞がりの中で「反日」を芯にして再起しようという姿にも見えてきます。本当に困ったものです。

 今年は「己(つちのと)亥(い)」の歳。陰気が極まって陽気が兆す年回りと云えるでしょう。「己」とは、糸が三本横にある中に縦線が2本あり、欲望に走りがちな自分をなんとか「おさめる」形。「紀」が名前では「おさむ」と訓むのに通じます。欲望の枝が繁茂して暗くなっているわけですから、今年こそ大胆に剪定し、方向性を定めなくてはなりません。
「亥」は、鍋蓋が「上」を意味し、その下で男女が何かを産みだそうとする様子だとも言われます。月では旧暦10月、時間では夜の9時から11時頃ですが、「核」という文字にも通じるように、それは爆発的なエネルギーを秘めています。「核」は元々「種」のことですから、これはすべての可能性を秘めた原初形と云えるでしょう。「亥」には「かたい・とざす」の意味もありながら、「きざす」の意味もあります。堅い種の中の閉ざされたエネルギーが、爆発の時を待っているのでしょう。
 いったい何が起こるのか、楽しみでもあり、怖ろしい気もしますが、今から60年前の昭和34年には2月に非核武装の問題で国会が揺れ、皇太子(現天皇陛下)のご成婚もありましたが、死者5千人以上を出した伊勢湾台風も来ています。事の善悪に関わらず、とにかく爆発的な噴出があるものと思っておいたほうがよさそうです。
 心配なのはTPPの影響ですが、これで「種」が知的財産扱いになり、グローバル企業の売る一代限りの「種」しか買えなくなることは間違いありません。また日本はすでに「世界一の遺伝子組み換え食品輸入大国」ですが、アメリカ贔屓の法整備も手伝い、怖ろしい農薬と共にますます広がるのではないかと危惧します。水道の民営化を認めたり、「種」の自家採取を禁じるなど、いったいどこまで市場原理で国を壊せば気が済むのでしょうか。エネルギーの爆発は、この流れに抗う力として噴き出してほしいものです。

 私自身は、今年は書き上げた作品に自分で納得できず、これまでになく鬱屈した思いでお正月を迎えました。これを書き直すには相当大胆な剪定が求められるのでしょうが、「亥」の爆発的エネルギーに期待するしかなさそうです。
 そういえば、境内に井戸を作るため、12月にボーリングをしていたのですが、およそ30メートルほどで岩盤にぶつかり、猶も掘り進めた結果71・5メートル地点で毎分60リッターの水が湧きだしました。さすがに地面まで自噴、ということにはならず、自然水面は地下4メートル地点になるそうですが、そうして大量の水が湧きだしたのは嬉しいことです。
 今年は5年近くまえから進めていたお寺の普請が大詰めを迎え、また何かと慌ただしい一年になりそうですが、鬱屈したエネルギーがなんとか自噴することを期待したいものです。
 1月はまず14日(月、祝日)、東京国立近代美術館で河鍋暁斎の仏画についての話をします。以前、暁斎の「地獄極楽めぐり図」の下絵に触発され、「地蔵小路」(『四雁川流景』所収)という短編を書いたのですが、これが私の本の精読者であるAさんを通じて河鍋楠美館長の目に留まり、お招きを受けた次第。我々僧侶が見送るときの思いも含め、暁斎の願った後生について話したいと思っていますので、宜しければ是非お出かけください。詳しくは公式サイトでご覧下さい。

                   2019己亥歳 元旦  玄侑宗久 拝