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今年の希望の一字

 今年もすでに、さまざまな催しがあった。
 1月14日には福島市の「キッチンガーデンビル」という場所で、赤坂憲雄氏、和合亮一氏と鼎談した。「言葉を信じて」というテーマだったのだが、それぞれ民俗学者、詩人、小説家として、この震災をどう受けとめ、そして今どのように立っているのか、確認するような時間だった気がする。
 そのとき私は、「文学界」に載せる予定の短編がまだ完成せず、とても中途半端な気分だったのを記憶している。しかしそれもようやく完成した。「拝み虫」というタイトルなので、「文学界」を見かけたらご一読いただければ嬉しい。
 ちなみにこの「キッチンガーデンビル」、一階は「かーちゃんふるさと農園わいわい」という元気な復興のための場所なので、是非お出かけになってみていただきたい(福島市栄町10-3 キッチンガーデンビル=旧博向堂ビル)。
 1月18日から19日にかけては、東京で会議と講演だった。主に東京禅センターの今後の運営について話し合い、翌日の午後には「ダルマさん」について講演した。七転び八起きのせいか震災後はあちこちで「起き上がり小法師」も見かける。最近では「起き上がりフラガール」というのも作られたらしいが、その原型になったダルマさんの、史実と伝説、そして伝説に仮託された後世の禅者たちの思いを探ったのである。
 戻ると翌日は、三春町のダルマ市だった。各地にある習慣のようだが、ダルマはとにかく「初心に返る」「歪みを修整する」ためのアイテムとして愛され続けている。講演では話せなかったが、『日本書紀』の聖徳太子についての記述からダルマさんは奈良県で亡くなったとも言われ、片岡山にはなんとダルマさんのお墓まであるのである。
 さて三春のダルマ市だが、毎年この日に、公募した多くの文字のなかから一字を選び、今年の希望の一字として大きなダルマの腹に書いたものを除幕して発表する。恥ずかしながら、私がその文字を書いているので、除幕式にも出席しなくてはならないのだが、この日は小野町のお寺の大般若祈祷会と重なり、出席できなかった。
 むろん、年末にすでに書いてあり、でこ屋敷各家の面々はそれを真似て小さな文字入りのダルマも販売してくださる。特に今年は欠席がわかっていたから、予めビデオに録り、文章も渡しておいたものが発表されたのである。
 四年前から始まった各「希望の一字」は、最初から「發」「根」「興」と続いた。一応、文章として書き下してみると、「根を發し、○を興す(し)」と自然に続く。今年の文字は○の位置に来るのである。
 多くの応募文字のなかから、私は「地」を選んだ。今年が巳年であることも関係しているが、今年こそ除染も含めて大地のことをきっちり考えなくてはなるまい。福島の大地こそが希望を拓く。将来を大きく左右することは間違いない。
 年頭のご挨拶でも触れたように、旧習を廃し、しっかりした基準や方法で、地に足着けて進みたいものである。

2013, 1/21 玄侑宗久 拝