日: 2011年3月30日

県内野菜の全面的出荷停止措置

 福島県須賀川市で24日朝、有機農業30年の農家のご主人(64)が首をつって亡くなった。県内野菜の全面的出荷停止、摂取制限が出された翌日のことだ。29日の朝日新聞は「原発事故 生きがい奪った」と見出しをつけたが、本当にそうなのだろうか。私の手元にある第一回の野菜調査結果によれば、3月21日に調べた郡山市のキャベツからは放射性ヨウ素もセシウムも全く検出されていない。この結果がきちんと報じられていれば、彼はこんなことにならなかったのではないか。風評被害というより、国の判断をそのまま受け容れた人々の責任を感じるのである。県内野菜農家をかくも絶望させたのは、細かいデータを一般に示さなかったメディアの怠慢でもある。きちんと調べてみないと、お宅のキャベツが危険かどうか分からないではないかと、誰も言おうとしなかったからではないか。彼の畑には約7500株のキャベツが、すでに試食も済み、収穫直前の状態で残された。彼はホウレン草などが出荷停止措置になったあとも、「キャベツは少しずつでも出荷しないと」と話し、納屋の修理などに取り組んでいたという。それが23日、県内野菜の全面的な措置に及ぶと、男性はむせるような仕草を繰り返したのだという。このとき彼に訪れた感情はいったいどのようなものだっただろう。きっと彼は、あまりに偏頗な人の心の変わりように、あるいは生産者を無視した市場のありように、そしてそれを促した国の決定に、むせるほどの吐き気を感じていたのではないか。彼は30年以上前から有機栽培にこだわり、自作の腐葉土などで土壌改良を重ねてきた。キャベツは10年近くかけて種の蒔き方などを工夫し、この地域では育てられなかった高品質の種類の生産にも成功していた。安全な野菜づくりに長年心血を注いできた彼にとって、全面出荷停止、摂取禁止は、自らの愛した大地に普通に立っていられないほどの事態だったのだろう。むろんJAの勧めるような「見せかけ」の生産など、彼にはできるはずもなかった。日本の農業の良心が、大きく踏みにじられたのである。踏みにじったのは果たして、原発事故だけだろうか?