日: 2011年9月9日

東北の野菜や牛肉はどれだけ危険か?

 中部大学の武田邦彦氏がテレビ「たかじんのそこまで言って委員会」で、9月4日に発言したことが問題になっているようだ。ネット上でおさらいすると、問題は「東北の野菜や牛肉を食べたら体をこわす」という発言だが、福島県に加え、岩手県の一関も含めての発言だったため、一関市長がメイルで抗議し、それに武田氏も自身のブログで答えている。
 一関市長が「すっきりはしないが、考えはわかったので終わりにしたい」と言いつつ引き下がった形だが、武田氏のあまりに自信満々の態度に、無益な議論はやめておこうと思ったのだろう。行政の責任者としては、そんなことをしている時間はないだろうと思う。
 それにしても、「東北の野菜や牛肉」とは、じつに膨大な内容とエリアを一括りにしたものである。武田氏は子供の質問がそうだったからそう答えたと弁明しているが、まず「そんなふうに大雑把に考えてはいけない」と言うべきではなかっただろうか。フクシマどころか東北全体を一括りにするとは本当に凄い。いったい何のために細かいモニタリングをしているとお考えなのだろうか。福島県内でも放射線量の低いエリアへの疎開などを検討している状況で、これは暴言と言われても仕方ない発言だと思う。
 いや、じつは私は、そんなことが言いたくてこれを書きだしたわけではないのである。そういう激昂する気持ちは横に置いておき、ここでは武田氏に認識できていない事実を一つ指摘しておきたい。
 放射性セシウムについては、これまで核物理学者や放射線などの専門家が発言することが多かった。その結果、放射能の半減期や、到底なくならない土壌中の放射性セシウム、といった側面ばかりが強調され、とにかくその絶望的不変性ばかり聞かされてきた。つまり簡単に言えば、これまではそれが放射性物質である以前にセシウムであり、セシウムにはセシウム独特の化学的性質があるということが重く見られていなかったのである。
 しかし実際には、セシウムの陽イオンとの相性により、コンクリートやゴム、プラスティックなどには固着しやすいが、アスファルトには固着しにくいことも分かってきた。
 また田圃のイネにおけるセシウムに吸収率なども、当初農林水産省が予測した土壌のベクレル値の約10分の1を大きく下回った。それはいったいどうしてなのか? 
中通り6箇所で調べられた早場米でも、わずかに一箇所だけ玄米では検出されたが、精米するとそれもNDだった。
 実際、農林水産省の予測は、スリーマイルやチェルノブイリ周辺など、イネではなく小麦を作る地域でのデータである。「おそらくイネも、そうだろう」という予測に過ぎなかった。しかし実際は、田圃独特の粘土質の土壌や、気候の違いもそこには大きく関係していたのである。
 現在の福島県の畑で採れる農作物は、果物も含め、おそらく武田氏が驚くほど放射性セシウムは含まれていない。
 当初は空から降り、それを被った野菜などはどうしようもなく汚染されたが、土からはどうやら吸い上げにくく、その辺の事情が以下の論文で納得できる。どうか大勢の方々に読んでいただきたいと思う。

http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2011/siryo34/siryo1.pdf

尤もこの論文が発表されたのは9月6日のことだから、武田教授がご存じなかったのも無理はない。
 ちなみに牛肉に関しては、以下の数値を示しておこう。
 たとえば基準値の500Bq の牛肉を毎日300gずつ一年間食べた場合の体への影響(Sv)は、500×300/1,000 ×365 ×1.3 ×10のマイナス8乗=0.0007115Svつまり0.7115mSvということは、711.5μSv。つまり胃のX線集団検診一回分ちょっとである。
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/related_information/radiation_in_daily-life

ここで1.3 ×10のマイナス8乗、というのが経口摂取の際の換算係数。鼻から肺に入る場合の係数は、3.9 ×10のマイナス8乗になる。
 東北の牛がどれだけ危険なのかは、人の話を鵜呑みにせず、自分で考えていただきたい。