日: 2012年1月1日

みずのえたつ

 明けましておめでとうございます。
 今は大変な境遇の方もおいでだろうし、「何が目出度い!」という気分の方もおいでかもしれない。しかし2011年は終わったのだ。除夜を経て新たな年に突入したのだから、とにかく気分を一新しなくてはならない。
 それにしても、昨年の元旦の挨拶を読み返して私はぞっとした。こんなふうに書いていたのである。

 「今年の干支は、辛卯(かのと・う)。辛とは、上と干との組み合わせで、地下にあった陽のエネルギーが地上に噴出する形です。卯というのもこれは陽気の衝動ですから、双方が合わさって大変なことになりそうです。ただ、膨大なエネルギーも、出口を間違えると紛糾、動乱になりかねません。要は、まっとうな革新のエネルギーになるために、保守すべきものをはっきりさせなくてはいけない、ということでしょう」

 放射線が陰か陽かは定かじゃないが、たしかに膨大なエネルギーが噴出して大変なことになった。なにより東日本大震災そのものが巨大なエネルギーの噴出だった。そして紛糾、動乱を経て、保守すべきものがはっきりしたのではないだろうか。
 さてそれでは、今年念頭に置くべき方向性とは何だろう。
 今年の干支は、壬(みずのえ)辰(たつ)。壬(じん)は孕む、即ち妊に通じる。また荷う、任ずるの意味もある。
 要は問題が重大化する場面で、これはと思える人物(壬人=任人)が次々に輩出するのだが、困ったことにこれがいわゆる任ずべき人だけでなく、己の野心を逞しくして時流に乗ろうとする人も現れる。
 だからこそ今年の干支の十二支のほう、つまり「辰」が重要になる。
 「辰」は会意文字だが、「辰」のガンダレの下の「二」は上、天、神、理想などを表す。理想に向かって辛抱づよく、慎重に、抵抗にもめげずに進んでゆくということだ。
 そんなふうに書いて私が思い出すのは、今はやはり科学と政治の問題である。原発事故や放射能の問題をめぐり、我々は嫌というほどこの両者の癒着を見せつけられた。何を信じるか、という選択が迫られるという意味では、それは殆んど安手の新興宗教と変わらないのだ。科学者でなくても、「辰」の在り方で勇敢に地道に進まなくてはなるまい。
 「寅」「卯」と来て朝日が昇り、「辰」は時間でいえば午前8時頃。季節では5月初旬か。ますます万物の動きが盛んになる。また「辰」はそのまま「震」にも通じるから、あるいはこの大地の動きがますます大きくなるのかもしれない。
 ともあれ、人と自然と、共に大きく動きだす年になることだろう。
 厭うべき動きよりも、悦ばしい動きの多からんことを念ずる、年の始めである。
                           2012 1/1 玄侑宗久 拝