日: 2012年8月28日

全国寺院OSL線量計測定結果について

 標題のように、三春町の「実生プロジェクト」は、2012年5月から7月にかけて、全国の寺院にお願いして各地の環境放射線量を測っていただいた。OSL線量計というのは、三春町で希望する小中学生に配布したのと同じ個人線量計である。各県2カ寺以上、それぞれ和尚さんなり、寺族の方なりに身につけていただき、普段の活動範囲での被曝量を測定していただいたのである(詳しい結果と考察はこちら:http://fukushima-misho.com/sokutei1.html 各地の線量も同じページからご覧になれます)。
 この企画の一番大きな目的は、福島県だけが全体的に他県より高い線量に違いない、という思い込みを払拭してもらうことである。6月23日にWHOから出された報告も、むしろその誤解を拡大するものだった。原発から20キロ圏内、あるいはそこに近いエリアにはたしかに特別高い線量の地区が存在するが、それが福島県全体に及ぶわけではない。その実態を、はっきり数値で示したかったのである。
 福島県内では、福島市、いわき市、会津のお寺さんにご協力いただいた。結果は、年間の累積線量に換算すると、福島市のお寺さんが2.10mSv、いわき市のお寺さんが 2.17mSv、そして会津のお寺さんでは 0.77mSv だった。福島市といわき市の数値はたしかに余所に比べるとやや高い。しかしアメリカは平均が約3mSv、北欧ではもっと高いことを思えば、いずれも通常地域の範囲に収まる数値である。
 内部被曝も含めた世界の平均被曝量は 2.4mSv だが、食べ物から摂取する放射性カリウムの分 0.29mSv と空気中から吸引するラドンの平均値 1.3mSv を引くと、約0.8mSv になり、これが環境放射線量の世界平均ということになる。福島第一原発の事故により、たしかに県内の線量は上がったが、会津地域では現在でも世界平均以下だし、福島市やいわき市も世界ではありふれた数値なのである。
 会津地方よりも線量の高い処は全国各県にある。年間1mSvを超えたら除染すべきだという方針を変えないつもりなら、今回の調査では熊本県、大分県、広島県、香川県、三重県、千葉県、埼玉県、新潟県などもその対象になる。会津以上といえば、更に数県増える勘定である。(今はどうやら「追加線量1m以内」と書き換えられたため、実際に目指す線量が曖昧になってしまったが……。)
 同じ県でも地域が違えばかなり線量は違う。北海道では倍以上違う地点が存在するし、大阪の2地点も倍数にちかい。岩手県の2地点も1:0.6 ほどだが、そのくらいの違いはざらに見られる。その点を明示したのが東北大学の小池武志先生によるカナダの分布図の例示である。今回の「図1」についてはやむを得ず平均値で示したが、これは本来福島県を一括りにするのと同じことで、そこに住む人々にとってはほとんど意味がない。しかし今回は、あくまで大枠での比較ということでご容赦いただきたい。
 実際、たとえば 2002年の長瀬ランダウアの調査結果によれば、このほかに以下の県が年間 1mSv を超えている。即ち富山県、石川県、福井県、滋賀県、愛媛県、山口県、鳥取県、岐阜県などである。今回と比較すると、たとえば石川県などの数値にかなり開きがあるが、これはやはり線量が増減したのではなく、測定地点の違いによるバラツキと考えるべきだろう。要するに、全国には平均しても意味がないほど、バラツキがもともとあり、1mSvを超える地点も無数といっていいほどあるけれど、これまでは何等問題にされなかったということである。
 今回の結果から、私はだから日本中の高線量地点全てを問題にすべきだと考えているわけではない。小池武志先生の分析と同じく、さほど問題はなかろうと申し上げたいのである。
 いや、べつに問題にしてもいいのだが、そうなると、福島県だけを問題にすれば済むという話ではなく、全国の同レベル地点も同じように問題にする必要が出てくる。実際、私の住む三春町よりも線量の高い地域は全国あちこちにあり、これに網羅的に対処するのは不可能だしおそらく無意味だろう。
 環境中の放射線の内訳として考えられるのは、土壌からの影響のほか、空からの降下も大きな要素だが、今回1mSvを超えた大分県や熊本県、三重県などが、福島第一原発の影響とは考えにくい。2002年に北陸が特に上昇していることからも、私などは中国から飛来する黄砂中の放射性物質を疑ってしまうが、皆さんの見解は如何だろうか。
 文科省の7月24日付け発表によれば、今回の事故で、宮城県、福島県のほか10都県からストロンチウム90が発見されたというが、この量は1960年代に降下した量のおよそ60分の一だという。「後の祭」と申し上げるつもりはないが、今さらそんなことを言われても泣くに泣けず、笑うばかりである。
 今回の調査は、国が各地の線量を発表してくれないから始めたことだ。私自身、各地に講演に行くとき線量計を持参すると、あちこちに福島県内より高線量の地区があるのは実感していた。
 国は、今回のこの結果をどう見るのか、文科省や厚労省に訊いてみたい。いや、除染に関することは環境省か、それとも復興庁か。
 おそらく組織のこうしたややこしさのせいで、大事なことがこれまでも看過されてきたのではないか。
 風評被害払拭に全力をあげると、県も復興庁も言っているようだが、それならこうして全国の線量を隠さず示すに限る。
 全国に、福島県内の多くの地点と同じような線量の地区は無数に存在する。しかも福島県の場合は土壌に原因があるわけではないから、今後は事故が繰り返されないかぎり、低下の一途を辿るはずである。そのことが確認できただけでも心強い。低線量被曝の影響が実際どうなのかは、水掛け論だから、我々「実生プロジェクト」としては、県内各地と似たような線量の地域が全国にたくさんあることを示したかった。その目的は、ほぼ達成されたと言えるだろう。
 ここで福島県各地の線量をもっと細かく示さないのは申し訳ないが、それは今やいろんな実測データがネット上にも溢れているから、そちらを参考にしていただきたい。
 今回のことで、全国のさまざまな宗派のお寺さんには大変お世話になった。どこも二つ返事で引き受けてくださり、感謝に堪えない。ただ今回の線量測定は二ヵ月間だけだから、「今回の値が高めなのは、あそこに出かけたせいではないか」など、普段とは違った行動を今になって懸念する方もいらっしゃるかもしれない。三春町としては、もっと長期に測定を続けていただき、行動によるブレ幅なども縮小してほしいと考えているが、なにぶん非日常的な道具を携帯するストレスもあったことと拝察している。まずは今回の親身なご協力に心から感謝したい。
 低線量被曝の影響をめぐる議論は、いつまで経っても埒があかないと感じている。それなら搦め手、というわけでもないが、これを全国の問題に拡げてみた次第。専門家の方々のご指導をひとえにお願いしたい。 (2012,8/28)